21世紀になって経済規模の拡大や環境汚染の激化など、よきにつけあしきにつけ中国の存在がますます大きなものになってきました。14億人が生活している から巨大な市場が存在するという見方は楽観的に過ぎますが、日本にとって中国に近接しているという地理的な条件は動かしようがなく、好むと好まざるとに関 わらずさまざまな影響を受けることは避けがたい現実です。このような条件であればこそ中国語を身につけることの将来の有用性はますます期待されています。最近ではアメリカのスタイルこそ世界の標準であるかのように振舞い、国を挙げてのアメリカ志向が風靡していますが、儒教文化圏という言葉を持ち出すまでも なく、中国語は古くから漢語や漢文という形で日本語の中に入り込んでいました。中国は西洋化以前の文明のモデルでもありましたし、日本人自身が日本語を対 象化する場合には、ある意味で最も重要な外国語でしょう。
その中国語の読む・書く・聴く・話すという運用能力を高めること、具体的には、道を聞かれても逃げださないことから、中国語環境でのインターネットの利用 や中国語の一流紙の閲読が可能となる水準までを最終の目的にして、各クラスが設置されています。中級の各クラスは時事・政治経済・思想・翻訳・作文といっ た分野に分けられていますので、それぞれの関心に従った選択が可能です。以下の点を目標に中国語に取り組んでください。
初級 | 基本語彙と文法、五・六語程度の短文を読み書きし、聴いて理解できること。ローマ字表記(ピンイン)を正確に読んで発音できること。 |
中級 | 新聞記事、文学作品などの長文を理解し、中国語の論理構造を読み取れること。正確な中国語での自己表現。 |
中国語を通して中国の文化の総体に触れる事で、皆さんにとっての新しい窓が開かれれば幸いです。
中国語は、英語のような語形変化や日本語のような助詞がない言語で、単語が置かれた位置(語順)で機能が確定するという文法形態をもち、類型としてはチ ベット語やタイ語とともに孤立語というグループに分類されています。文法的には日本語と全く異なり、また多くの人が大学入学までに学んでいた英語とも原理 的に異なる言葉に触れることは真の意味で国際性を考えさせるとともに、皆さんの学生生活を豊かにすることにもつながることでしょう。
ここでは大学で初めて学ぶ言語として中国語に向きあう時に知っておくとよいことを簡単に記したいと思います。 まず、中国語の特徴として知っておくほうがよいことは、原則として一音節=一単語=一文字の言語であるということです。これは中国語の音韻体系から規定されているところもありますが、そのために漢字が膨大な数になるという結果にもなっています。
文法的には、複数形や格変化、動詞の活用、時制の概念もなく、皆さんの知っている代表的な外国語である英語とは全く異なります。英文法の概念で中国語を理解しようとしても無理がありますから、注意してください。
次に、発音上で中国語を学ぶ際に重要な点は、日本語にはない声調(トーン)があること、また有気音と無気音の区別があるということです。また中国語の発音を表すには現在では_音(ピンイン)と呼ばれるローマ字の発音表記を用いるのが普通です。
中国語の標準語(普通話)の母音は37、子音は21あり、音節の数は声調を別にしても約400といわれます。それに対し日本語は音節の数が140ほどといわれていて、中国語と比較すると、日本語の発音体系はずいぶん単純といえます。そこで、一音節でひとつの意味を表現している時、日常生活で必要な基本語彙1000程度を一音節語でまかなおうとすると、日本語の場合はかなり無理があります。“は”という音に葉、歯、刃、羽、端という意味を当てたり、“め”に目、眼、芽、女などの意味があるのは、そのためです。ですから、日本語の基本語彙は二音節以上の単語が普通になっています。
それに対して中国語の場合は、音節の数と声調による区別をすると、1400くらいの意味を一音節(+声調)で表現することが可能になります。というわけで中国語はひとつの意味をひとつの文字で表すということが無理ではない。漢字が象形文字の痕を引きずりながらも現在まで生き残ることができたのは、そのためだと思います。そして、文字化した場合に直接その意味を伝えることができるという利点は、語彙を文章語として固定化することになりますが、日常話している口語の語彙の場合には不利に働きます。そこで、音だけで聞いて意味を確定するためには、二音節に音をふやすことが有効になります。
中国語の口語語彙をみると二音節の単語が多いことがわかると思いますが、これは一音節の単語の場合におこる同音衝突(同音異義語)を避けるために、用いられた方法ということができます。
たとえば、月をあらわす「月亮 yuèliang」という単語は、文字に書かれている場合は前の「月yuè」だけでも意味がはっきりしますが、耳で聞いたときには、同じ音を持つ文字(単語)が、声調は異なっても「越・悦・曰・楽・岳・約・躍」などたくさんあり、混乱しないとはいい難い。そこで、“月”:中心的な意味をあらわす部分と“亮”(この場合は声調がなく軽声でよみますが、意味は「明るい」という意味で月を形容するものといってもいいわけです)という音を添える付加的な部分をあわせて、二音節の単語にしています。
眼睛(め yănjing)、耳朶(みみ ěrduo)、石頭(いし shítou)椅子(いす yĭzi)のように、後に軽声をもつ二音節語が基本的な語彙にたくさんあるのは、中国語の特徴(原則として一音節=一単語=一文字)から生じる現象なのです。しかし、後ろにつく文字は音をふやすために付けられたとはいっても、前の文字とまったく無関係ということではなく何らかの関連性をもっていることが普通ですから、慣れればそれなりに理解できると思います。
日本語の漢字の音と意味は、隋唐時代のものが奈良時代以降に体系的に取り込まれてきたもの(漢音)で、日本人が知っている漢語は基本的には古典の文章語として記された語彙です。言葉は生き物ですから、漢字の意味と音が日本に伝えられた後もどんどん変化していきます。文章語の語彙は文字として固定化された意味がそのまま保存されたので、文章語と口語との乖離も大きなものがでてきます。基本語である二人称の(nǐ)なんていうのも現代の日本語の漢語にはありませんし、母親をいう媽媽( māma)にしても普通の日本語にはありません。こうした乖離に対し、日本人には基本語彙であるものほどよくわからないということになり、とっつきにくいという印象をもちますが、現代中国語は20世紀の初頭から文章化されて作られてきたもので、日本人が知っている古典文章語とはまったく異なる伝統と内容を持ったものであることを知っておいてください。
中国語で用いられる文字は漢字ですが、実は同じ漢字でも三種類あります。大陸で用いられているのは中華人民共和国が建国されてから、画数を減らして簡略化した漢字で、簡体字または簡化字というもので、それに対して、台湾のように昔ながらの文字をそのまま用いている場合もあり、その旧字体の漢字は繁体字と呼ぶことがあります。さらに、日本でも第二次世界大戦後、漢字を簡略化して常用漢字として用いていますから、場合によっては同じ文字でも以下のように三通りに記されることがあります。
常用漢字(日本) | 為 従 両 護 発 漢 豊 霊 |
繁体字(台湾) | 爲 從 兩 發 豐 靈 |
簡体字(大陸) |
为 从 两 护 发 汉 丰 灵 |
日本では中国語を学ぶ場合簡体字を用いることが普通ですから、簡体字に慣れなければなりません。簡体字を初めてみると、見たこともない文字があって取っ付きにくいと思いますが、草書体をもちいて画数を簡略化したり、文字の一部分を取り出したり、同音の成分に置き換えるなど、簡略の原則は慣れればわかってきます。ただ、発音を辞書で調べる時には部首がわからないと調べられないので、簡体字の部首と画数にはよく慣れておいてください。また、店の看板には雰囲気を出すためにわざと繁体字を用いることもありますし、歴史的なものは繁体字で書かれています。昔の漢文史料はもちろん繁体字ですし、台湾・香港ではいまでも用いられています。
現在では中国語の発音を表すのには漢語拼音字母、略して拼音(ピンイン)と呼ばれるローマ字の発音表記が用いられるのが普通です。こまかいルールもありますが、基本的にはV以外の25文字のアルファベットを組み合わせて中国語の発音を表し、母音の上に声調(音の高低)を示す声調符号を加えて表記します(コンピュータのキーボード上ではvはü:uのウムラウトとして用いられます)。それぞれの教科書には必ず中国語の音節表が付いていますから、よく見てどのように表記されるのかをマスターしてください。中国の地名や人名をローマナイズする場合や、辞書を調べたり、コンピュータで中国語を入力する場合にもピンインは不可欠です。
中国語の発音で日本人が区別しにくいのが、鼻母音につくnとngの違いですが、日本語の中にもふだんは意識されてはいませんが、鼻音nとngは存在していて、案内〔あんない〕と案外〔あんがい〕という場合の「ん」の違いが、nとngの違いにあたります。これに関して、ピンインで(-n)でおわるものは、日本の漢字音で漢〔カン〕( 汉hàn)や建〔ケン〕(jiàn)のように〔-ン〕となり、ピンインでは(-ng)となるものは、光〔コウ〕(guāng)や明〔メイ・ミョウ〕(míng)、星〔セイ・ジョウ〕(xīng)のように〔-ウ〕や〔-イ〕でおわるということは、初級に出てくる単語に関してはほとんど例外なくあてはまるので知っていると便利です。
声調(トーン)とは音の高低の調子のことで、音節を構成する重要な要素になっています。中国語の標準語(普通話)の場合、声調には四声と軽声の五つがあり、音の高低とその変化(上昇と下降)で表現しています。高低の場合は高い音、低い音を認識させるために、少し長めに音を保つことになります。それに対し変化は急激にするので、上昇(第二声)と下降(第四声)は短くなります。第二声は後にアクセントを置く感じでいうと言いやすくなります。また、第三声は単独でいう場合は、低く言い続けるとしんどいので自然に力を抜いて後ろが上がるという感じですが、うしろに音が続く場合は、低いことを表せばよいので、低いところから(半三声)そのまま次の音節の声調へ続きます。
語彙のところで記したように、中国語には同じ音をもつ文字はたくさんありますから、区別するためには声調が必要になります。たとえば、zhuという音をもつもの例にすると
第一声:zhū 猪・朱・珠
第二声:zhú 竹・逐
第三声:zhŭ 主・煮・嘱
第四声:zhù 住・注・祝
などがあり、猪(ぶた)と珠(真珠)は同じ第一声ですが、第三声:煮(ゆでる)と第四声:祝(いのる)を区別しないと「祝你工作顺利!(お仕事が順調でありますように)」というお決まりの言葉が、とんでもない意味に聞こえかねません。さらに、講師を言おうとして第三声と第一声を間違えると、講師(jiăngshī)は香港映画でおなじみのキョンシー(僵尸 jiāngshī)になってしまいますから声調には充分注意してください。
日本語には清音(無声音)と濁音(有声音)の区別はありますが、中国語にある有気音と無気音の区別はありません。日本語話者にとっては母語にない区別なので慣れないと難しいのですが、中国語では有気音と無気音を対立してとらえ、意味の違いを持たせているので、重要な区別の一つです。有気音は破裂音ともいうように、勢いよく一気に音を出すといわれます。それで、口の前に吊るした紙切れが大きく動いたりするわけです。ふだん日本語で話している場合はだいたい無気音ばかりで、紙切れが動いたりしません。
有気音の「気」というのは“息”のことで、セットになっている有気音と無気音は、その子音を発音する時の口の形は両方とも同じです。それを便宜的に簡略化して示すと、
有気の音 ピンインで示すpaは
無声の子音 + 息 + 母音 :[ p ’+ a ]
無気の音 ピンインで示すbaは
無気の子音 + 母音 :[ p + a ]
というようになります。
Windows10の場合
Windows11の場合
Wordで中国語を入力するときの注意点