所長ご挨拶

大学で外国語を学ぶこと

外国語教育研究センター所長 加藤 耕義(KATO, Kogi)


皆さんは、それぞれ自分が選んだ専門分野の高度な知識を身につけることや、 またその知識をもとに自ら研究することを目的として、 希望に胸を膨らませて大学に入学したことと思います。 大学で専門分野の探求をすることをドイツ語ではstudieren(シュトゥディーレン)といいます。 一方、外国語の勉強は、それが大学の授業であってもlernen(レルネン)といいます。 「習得する」という意味です。「自分は大学に学問しにきたのだから、 『外国語の習得』なんていらない」と考える人もひょっとするといるかもしれません。 でもちょっと考えてみてください。皆さんが外国語を習得することで、 世界にある多くの情報を手に入れることができます。 それは皆さんの学問にも、とても役立つことです。

もちろん、外国語で物を読むのは、日本語で読むのよりも時間と労力がいります。 特に内容の高度な文章では一つひとつ言葉の意味を吟味し、 書き手が何を言いたいのか考えながら読まなければなりません。 でも学問的な書物を読むときには、この読み方がとても適しています。 おおざっぱに読んでいる母語話者よりもきちんと理解することができるかもしれません。 「今の時代、コンピューターで自動翻訳できるから語学習得なんていらないよ」と考える人もいるかもしれませんが、 一つひとつの語を咀嚼しながら読むことは自動翻訳ではできないのです。

 一方で多読も重要です。これは辞書を使わずに簡単なテクストをたくさん、テンポよく読む練習です。 多読で文章に慣れることで、その外国語の感覚を身につけることができますし、それは熟読の助けにもなります。

 外国語で自分の考えを発信する場合はどうでしょう。私たちは、日本で暮らしていれば、 たいていは同じ文化的背景をもっている人たちと会話します。 ですから発話者があまり明確に言わなくても聴き手は察してくれます。 しかし、文化的背景の異なる外国人と話すときにはそうはいきません。何を伝えたいのか、 まず自分の中で明確にしなければなりません。この思考過程は、 日本語においても伝えたいことを整理してきちんと伝える訓練になります。

 学生時代にぜひ留学をしてみてください。異文化の中に身をおくと、さまざまな異質なものに触れるでしょう。 そしてしばらくすると、その社会のなかでは自分の方が異質なのだと気づくかもしれません。 そうすると初めて「自分とはなんだろう」というアイデンティティー探しが始まります。

 グローバル社会になり、国際人であることが求められるようになりました。でも外国語ができれば国際人なのではありません。普遍的な知識を持ち、 異なる文化を持つ相手の考えを的確に捉え、また自分が育ってきた文化的背景を知った上で自分の考えを述べられる、 そうした人材が求められています。外国語の習得を通じて、 ぜひ自分の感性を磨き、皆さんの学問に役立てて下さい。できれば四年間続けるといいと思います。

(外国語教育研究センター ニュースレターPassport Vol. 23より転載)